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title.png 相続トラブル事例その3 相続人の一人に介護される親の相続
n02.png 相続トラブルになりやすい事例として、「相続人の一人に介護される親の相続」の方々があげられます。なぜでしょうか?

1.親の介護は大変?

 ここに姉と妹、1組の姉妹がいます。 姉は独身、父の実家に同居し、高齢の父の介護を行い、父が息を引き取るまで面倒をみました。妹は結婚し、子供もいて、実家から離れた地域に住んでいます。

 父は独身の姉を心配し、自分の面倒を見てくれたことに感謝していたので、遺産はすべて姉に残すと、生前によく言っていました。父の遺産は実家と預貯金です。父が亡くなると、妹が遺産分割の話しを持ちかけてきました。姉が遺産は生前父が譲ってくれることを告げましたが、妹は法定相続分の半分の遺産を分割するように主張してきました。

 妹はあまり実家に顔をみせず、父の介護をしていたのは私だけ、その苦労を考えれば、遺産の分け方にもその分はねかえってくるはずだ。姉と妹の主張は食い違い、トラブルに発展してしまうのです。

 ちなみに生前の相続人の貢献により、相続財産が増えたのであれば、その分、遺産分割では考慮され、他の相続人よりも多くもらうことがあります。それを寄与分と言います。たとえば、相続人が亡くなった方に生前お金を贈与するなどです。

 介護は寄与分に含まれるのでしょうか?

 年老いた親の面倒を見るのは、子の義務です。その義務の範囲であれば、寄与分を認められることは、なかなか難しいようです。しかし、姉の介護が無ければ、親の財産が減っていたことを証明できれば、寄与分に認められる可能性もあるようです。つまり、通常であれば、介護施設に入れるほどの重い介護にもかかわらず、姉が介護することで、施設に入らずに、高額な施設料を払わなくてすんだなどの場合です。


2.親と同居は得してる?

 相続でもめているケースでは、妹は姉のことをどう思うのでしょう?

 実家を離れ、マイホームを購入し、ローンの支払いに苦労している妹からすれば、姉がいくら親の介護をしていても、それは当たり前のことで、むしろ親の実家でただで住ませてもらっているんだから、遺産は公平に分けるのが当然であると思うわけです。

 もっと言うと、仮に家賃を月額5万円として、20年間も実家で暮らしていたのだから、1200万円の贈与を親から受けたようなものだ!と言いたいのかも知れません。

 ちなみに、生前に親から子(被相続人から相続人)に対して、扶養義務以上に利益を受けたのであれば、その分、遺産分割では考慮され、他の相続人よりも引き受ける財産が少なくなることがあります。それを特別受益と言います。

 では、親と同居することは、特別受益にあたるのでしょうか?

 一見、利益を得ているかもしれませんが、相続人が家を自由にすることができるわけでもないですし、心理的な負担もあるでしょう。実際、相続人の子が被相続人である親と同居することは、特別受益と認められるのはむずかしいようです。

 このように相続人の一人から他方の特別受益について、主張し始めると、あとはいたちごっこになります。

 「そういう妹は、住宅ローンの頭金、親に出してもらったじゃないか。」
 「おねえちゃんは、大学まで行かせてもらって、私は高卒どまり。」
 「妹は、いつも親に甘え上手で、子供の頃から何でも買ってもらえて。」
 「おねえちゃんは、長女っていう理由だけで、えこひいきされて。」

 最期のほうは、遺産分割とは関係の無く、ただの兄弟げんかになるかもしれません。


3.遺産を開示しない!親の財産の使い込み?

 父が高齢になると、姉は父の通帳を預かり、代わって財産管理をするようになりました。妹が父が亡くなった際に、遺産分割の協議をもちだしたところ、姉は遺産について、どのような遺産があるのか、どれくらいあるのか、一切話しません。

 最期の数年は、父も認知症を患っていました。開示しないのは、父の遺産を姉は使い込んでいたのではないか、とまで疑ってしまうようです。


title.png トラブルにならないためには?                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          
n02.png 相続人の一人に介護されている親の相続において、トラブル事前に防ぐにはどうすればいいのか?


1.親が元気なうちに遺言書で遺産分割の方法を指定する。

 「長女に面倒見てもらってる分、遺産の大半は長女に。」

 このように考えているのであれば、必ず遺言書をつくっておくべきでしょう。「介護」と「実家で同居」が結びつくと、どうしても遺産の少ない相続人からは、不満が出てしまうようです。しかしそれを決めたのが親であれば、納得する子も多いことでしょう。

2.付言事項でなぜそのように分けたか理由を説明する。

 「全財産を○○○○(姉の名前)に相続させる」

 この文言だけを見ると、遺産をもらえない妹はどう思うでしょうか?「面倒見てくれたから姉に全部あげる、妹はマイホームの頭金を出してあげたし、結婚して立派な家族ができたから大丈夫。」親はそんな気持ちで出した結論でも、その気持ちが分からなければ、妹は愛されていなかったんじゃないかと悲しい気持ちになってしまうかもしれません。

 遺言書には、付言事項というものがあります。書くか、書かないかは遺言者の自由です。どんなことを書いてもいい、おまけのような事項を書きます。そこでしっかりとなぜそのように遺産を分けたのかを理由を書いてあげてください。


3.使い込みが心配なら成年後見制度を利用

 今回の事例にあてはまるかどうかはわかりませんが、子の一人が、認知症になった親の財産管理を引き受け、通帳を預かったはいいものの、使い込みにより、親の生活にも支障がきたしているのであれば、成年後見制度を利用することをおススメします。

 成年後見制度は、家庭裁判所に申し立てることにより、判断能力の低下した人に代わって財産管理や身上監護をしてくれる成年後見人を選任してくれます。その成年後見人の業務はすべて家庭裁判所が監督しているので、子の親の財産に対する使い込みを防ぐことができます。